出張着付の思い出


各家庭に出向いて着付けを始めたのは30年も前の事ですから私は出張着付けのパイオニアだと自負しています。
 当時着付けは美容院でしてもらうものという概念がありましたので、なかなか私たちは受け入れてもらえませんでした。
 私は芸能界で衣裳担当をしており、舞台や映画の第一線で着付けをしていましたので、美容院の着付けというものはプロフェッショナルとしてはもう一つだなと思っていました。
 美容業界は着付けに自信をお持ちの先生が、勉強会を主催して美容界の人達を教えておられる先生方もおられます。私はそういう美容界の先生方に時代衣裳の着付けを教えに行ったことがあります。

 私がきもの学院を始めたきっかけは、各きもの学院の先生方を教えていたことが発端になっていますので、きもの学院の先生方の技能もよくわかっています。
 技能面においては美容業界の先生方と、きもの学院の先生方とはそんなに差異はありません。
 私から見ればの着付けのプロフェッショナルとしては決してグッドとは言えないレベルですが、そんなことは一般の人は分かりませんので、社会通念を打ち破って美容業界に打ち勝つことは至難のことでした。

 何の取り柄もないけれど着付だけは絶対の自信を持っていましたが、それを広く知っていただかなければ前進しません。そこで私の技量を知っていただくことが先決ですから、美容院が留袖の着付が5000〜6000円という時代に2000円から始めました。
 お陰様で口コミで広がって行き10月〜5月いっぱいくらいまでは仏滅の日祭日以外は正月も関係なく仕事が入ってくるようになりました。学院の講義の方は夏も関係なくありましたが、日祭日に休めるのは6月の中旬から9月の中旬くらいまでという状態でした。
ですからどこかに旅行に行くときは何時も夏でした。
旅行専門家は旅行で一番つまらないのは夏だと言います。景色に趣が少ないからだそうです。それでもそれ以外は行けないのですから仕方ありませんでした。
今は後継者に全てを譲ってしまって、新しく私個人で細々と始めていますが、忙しかった時のことを時々思い出します。