エッセイ「人生探訪」仕事編No4

勿論職種にもよりますが、大きな企業の工員さんの仕事は覚えてしまえば同じことの繰り返しです。そういう同じことの繰り返しの仕事は自分には向かなかったのだと思います。
養成期間が終わって正式に職場配属が決まって直ぐに、仕事が嫌で仕方がなかったのです。
そんな悶々としている時に誰が書かれた本かは忘れてしまいましたが、「流通革命」という本を読みました。
それには、これからの時代は年功序列もなくなり、実力本位になっていくと書かれていました。
私は貧しい家に育っていますので上昇願望の強い人間です。
神戸製鋼は工員と職員との区別があり、職員の方が給料の等級も上で管理職になれます。
ところが私達養成工は現場の監督、会社では組長といっていましたが、組長候補であって出世をしてもそこまでです。
油と鉄錆びの色に作業服を染めて働く毎日です。真面目に勤めていれば安定している会社ですから生活には困ることはありませんが、その会社で自己実現を成し遂げることはできません。出世のできる立場ではありません。己にそんなに実力があるわけでもないし、何かに取り組んで根気よく真面目に努力するというタイプでもないくせに上昇願望だけは強く持っていたので、落ち着かなくてイライラしていました。
 三交代勤務が嫌でイライラしていた時に、その本に出くわしたものですから、これではこのままに終わってしまう。何とかしたい。そのためには勉強をしておかなければと考え、専門学校にでも行こうと考えました。
 そうするには三交代の勤務状態では行けませんので配属場所を変えてくれと頼みました。そうすると「君たちにはお金を掛けて会社で必要な知識は十分に教えてあるのだから、それ以上は必要ないから認められない」と断られました。
 若いときはこうと思ったら見境なしに突き進んでいくところがあります。そのように優しく諭されても自分の気持ちをコントロールできません。それでは辞めますと辞表をだしました。
 私の親父は私の言動については怒ったり注意をしたりしたことがありません。ただ黙って見守っているというタイプです。私が仕事を辞めると言ったその時だけはさすがに心配して、「お前なにを考えているのや、あんな良い会社を辞めるなんて」と初めて注意を受けました。