人生は登り坂(No25)


大きな企業の工員さんの仕事は覚えてしまえば同じことの繰り返しというのが一般的です。そういう同じことの繰り返しの仕事は自分には向かなかったのだと思います。養成校の期間が終わって正式に配属の職場が決まって直ぐに仕事が嫌で仕方がなかったのです。
そんな悶々としている時に誰が書かれた本かは忘れてしまいましたが、「流通革命」という本を読みました。それには、これからの時代は年功序列もなくなり、実力本位の時代になっていくと書かれていました。
私は貧しい家に育っていますので上昇志向の強い人間です。
神戸製鋼は工員と職員との区別があり、職員の方が給料の等級も上で管理職になれます。
ところが私達養成工は現場の監督、会社では組長といっていましたが、組長候補であって出世をしてもそこまでです。
 油と鉄錆びの色に作業服を汚して勤めている毎日ですが、真面目に勤めていれば安定している会社ですから生活には困ることはありませんが、その会社で自己実現を成し遂げることはできません。
 出世のできる立場ではありません。己にそんなに実力があるわけでもないし、何かに取り組んで根気よく真面目に努力するというタイプでもないくせに上昇志向だけは強く持っていたので、精神的に落ち着かなくなりイライラが募りました。
そういう矢先にそういう本に出くわしたものですからこれではいかん。もっと勉強をしておかなければと考え専門学校にでも行こうと考えました。
 そうするには三交代の勤務状態ではいけませんので余計に仕事が嫌になりました。配属場所を変えてくれと頼みました。
そうすると君たちにはお金を掛けて会社で必要な知識は十分に教えてあるのだから、それ以上は必要ないと認められませんでした。
 若いときはこうと思ったら見境なしに突き進んでいくところがあります。私もそういわれても自分の気持ちを抑えることはできませんのでそれでは辞めますと辞表をだしました。

 私の親父は甲斐性は無かったのですが、私の言動については怒ったり注意をしたりしたことがありません。ただ黙って見守っているというタイプです。
 私が仕事を辞めると言ったその時だけはさすがに心配して、「お前なにを考えてるんや、あんな良い会社を辞めるなんて」と初めて注意を受けました。