君は本当にプロか


私が出張着付を始めたのは30年前です。
まだどこのきもの学院も手掛けてませんでした。そういう意味では私は出張着付のパイオニアだと自負しております。
 当時は着付は美容室でしてもらうという概念がありました。お客様は美容に関しては非常に欲求が強いので、定着している概念を打ち破って仕事を確保することは至難のことでした。
 自分では芸能界で鍛えた技能ですから絶対の自信を持っています。いくら自信たっぷりでもお客さんに知られなければ一歩も前進しませ。そこで自分の技量を知って頂くために、当時美容院では留袖の着付が5000円の時に2000円から始めました。
2000円ぐらいですと、「あそこに頼んだけど、安いところはやっぱりだめやわぁー」ということで諦めがつくから、「騙されたと思って一度頼んでみるわぁー」というお客様が必ずいらっしゃると思ったからです。
 私の思惑通りに順調に広がっていきました。2000円で長い期間我慢して行いましたが、これ以上広がっても責任のある仕事が出来ませんの料金を世間並に上げさせて頂きました。

 この出張着付は経営者の私達が続けて行くつもりで始めたのではありません。生徒の中にはお稽古をしたことを活かせて自分も活躍したいという人がいますので、そういう人達のために活躍する場を作って置いてあげるという目的で始めました。
 やってみたいという人は沢山いますが、仕事ですからお客さんに喜んで頂いて信頼して頂けるような仕事をしなければいけません。
 この人なら時間を掛けて丁寧に仕事をすれば何とか出来るだろうと思って行かせても、私が開拓して広げたお客様ですから、技量の比較をされて必ず苦情の電話が掛ってきます。初めからその人に行かせておれば他のきもの学院の人と比較すれば勝っていますので、着付てこんなものだと思って苦情も出ることがないのですが、比較されると劣るから苦情がでるのです。

 「先生はやっぱり上手だわぁー」と言ってくれても私は嬉しくありません。プロは上手で当たり前です。それよりも「あそこの人は誰が来ても上手で安心して任せられる」と言われるようにしたかったのです。
 そう思って活躍したいと希望する人には叱咤激励をして育成に努めましたが、容易に人は育ちませんでした。

 お稽古ごとの世界は最初からプロになろうと考えてお稽古に来る人は皆無です。
もう少し頑張れば峠を越えられるというところまでは来れる人もいるのですが、あと一歩のところで峠を越えれません。それは勝負が掛かってお稽古に来ているわけではありませんので我武者羅になれないからです。。
 そういう精神的甘さというよりも、人生に対する執着心の希薄さという根本的な要因でほとんどの人は峠を越えることが出来ずに終わっています。
そういう人でも自分は着付をお稽古したことがあるからと、仕事を請け負ってやっているというのが今の着付け業界の実態です。

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